自然派きくち村

自然栽培、農薬・肥料不使用のお米とお野菜。
ストレスをかけない放牧された牛、豚、鶏のお肉。
こだわり抜いた調味料。
それらを使用した惣菜にスイーツ。





やまあい村 走る豚 豚熱ワクチンと対策について

お客さま各位

 当店取り扱い「走る豚」生産者の「やまあい村」武藤勝典さんより、日本国内で発生している『豚熱』及び『豚熱ワクチン』への見解、やまあい村の対応についてコメントをいただきました。
 ぜひご一読ください。


有限会社渡辺商店
オンラインショップ自然派きくち村

豚熱ワクチンと対策について

 いつも走る豚を食べていただき、ありがとうございます。生産者のやまあい村 武藤と申します。

 ここ数年、日本国内で豚熱(csf:以前は豚コレラという名前でした)という法定伝染病が発生し、国内の養豚家さん、農水省、家畜保健衛生所は対策に追われています。

 5年前に豚熱が本州で発生した際には猪や鳥が媒介する危険性があるとして(そういう科学的データや生産者への聴き取り調査も無いまま一方的に)、豚の放牧自体が規制されかけました。その節はインターネットを通して沢山の方々に大変お世話になりました。農場全体をフェンスで物理的に囲ったり、餌を食べる場所をネットで被ったり、いざという時の避難場所を確保することで、何とか続けることができました。その甲斐もあって、今の所、放牧養豚では豚熱は発生していません。

 豚熱は口蹄疫や鳥インフルエンザと同じ、法定伝染病に指定されています。感染力が強く、死亡率も高く、治療法が存在しない為です。ワクチンを接種すれば高い確率で発症を抑えることができますが、それのみでは100%ではありません。防疫措置が必要になります。私たち生産者もどこで持ち込むのか分からないので、観光地や人が多いところにはできるだけ行かないようにしています。九州は特に中国や韓国等の豚熱、アフリカ豚熱、口蹄疫発生国からの人の出入りが多いので。

 ワクチンを使用すれば日本は豚熱発生国として清浄国では無くなるので、他の豚熱清浄国へ対して豚肉の輸出ができなくなる、他の豚熱発生国からの豚肉輸入によって国内の養豚が守りにくくなるといったデメリットがあります。それもあって豚熱発生時(26年ぶり)にワクチン接種の初動が遅れ、一気に広まってしまった経緯があります。

 法定伝染病のワクチンはかなり厳格に使用を国から管理されています。豚熱が本州で発生した際にも徐々に広まったものの、北海道や九州では発生しておらず、野生の猪からも陽性反応が無かったことから、ワクチンは接種していませんでした。しかし、8月末に佐賀県の養豚場2箇所で豚熱が発生してしまい、近隣の県である九州全域もワクチン接種推奨地域に国から指定されました。ワクチンを接種していなければ、近隣で発生した際に移動や出荷ができなくなります。

 現代の畜産の基本は外から菌やウイルスを持ち込まない、消毒を徹底する、衛生的に管理された畜舎で人が抗生剤等を上手に使い、コントロールすることです。ただ、一度病気が入ると密な状態ではあるので蔓延しやすい環境とも言えます(日本の養豚の平均の一頭あたりの飼育面積は一平方メートルです)。

 やまあい村で豚を放牧しているのは、動物福祉の考えに沿ったものでもありますが、豚の免疫力を上げ、ストレスを緩和し、できるだけ薬に頼らないようにする為です。抗生剤等を予防的に日頃から常用すると耐性菌が発生し、薬の効かない病気が発生しかねないですし、実際にそれで世界的には亡くなる方もおられます。

 考え方の違いでそれぞれ長所短所があり、良い悪いではありません。それぞれのやり方で一生懸命頑張っています。

 法定伝染病の蔓延防止を考えた時、豚熱が1頭でも発生した農場では全頭殺処分ということが法律で決まっています。それは治療法が無く致死率の高い病気を広めないためです。生き残って抗体ができる豚も中にはいますし、個人的にはそういう豚を遺していけばと思うのですが、そこに行くまでにかなり沢山の豚を死なせてしまい、経済的、経営的には立ち直れないほどのダメージを受けてしまいます。

 九州は畜産の多い地域です。
人や車や野生生物が運んでいる要因であるとのことで、防疫は広い地域単位で行わなくては効果がありません。ワクチンを使いたい畜産家なんていませんが、近隣にご迷惑をおかけしない為にも、苦渋の決断ですが、やまあい村の走る豚でもワクチンを出荷までに一度だけ(生後30日〜40日頃)打つことにしました。

 よく質問でされるのが豚熱ワクチンはmRNAワクチン(新型コロナワクチンの件で問題になっていますね)ですか?というものです。違います。今回使うワクチンは30年以上前に豚熱(当時は豚コレラという名前でした)が流行した際に実際に終息させた実績がある生ワクチンです。

 先代の父に尋ねたところ、父が養豚を始めた50年前には当たり前に日本中の豚に打たれていたものだそうです。調べてみると2000年代まで使用されていたところもあったようです。

 ワクチンについてはインターネットでも様々な情報が錯綜しており、賛否両論あることも承知しています。中には極端な意見も見かけます。ですが、動植物関わらず、生き物がある一定数を越えて同じ種が集まった状態は自然界ではあまり無いことで、病気が発生しやすく、それを抑えるには技術や薬が必要になります。

 私たちはウイルスの専門家ではない一農家です。ネットにある様々な情報が本当かどうかも最終的には判断がつきません。今までの経験や現場で検証した知識から少しずつ足元を固めていくしかありません。

 豚は人や牛や馬と違い、多産です。一度に十数頭産みます。多産な生き物は基本的に元々生存率があまり高くありません。死にやすいのを生まれた数でカバーしています。特に豚は汗腺が無く、筋肉が多い生き物です(平均して体脂肪率は15%程度)。なので、病気にかかって発熱すると体温調節がうまくいかず熱が上がり過ぎてコロッと死んだりします。家畜化によってストレスにも弱くなっています。

 人が家畜として豚に関わる以上、死なせては経営も成り立ちませんし、何より抗生剤でもワクチンでも、救う手立てがあるなら実行します。死なせたくはありません。

 やまあい村では軽い風邪や病気なら様子見して赤土や葉物を食べさせたり、断食したりして様子を見ます。ただ、あまりありませんが、どうしても死にそうな場合は抗生剤を使います。

 抗生剤ごとに休薬期間があり、抗生剤を使用したら大体2週間ほど出荷できないという決まりがあります。やまあい村では念の為倍の4週間以上の休薬期間を取って出荷するようにしています。

 よく自然派のインフルエンサーの方の中には農薬や薬やワクチン全般を悪いものとして扱われる方がおられます。やまあい村としてはそれらをできるだけ使わないようにはしています(米、野菜、椎茸、栗には使わずに済んでいるので使いません)が、全く使わないわけでも、否定するわけでもありません。使い方、使う量、使う人次第だと思っています。

 開発した方々は世の中を良くしようと情熱を傾け、努力されました。そのことに敬意を持っています。技術は前に進めるべきだし、それが環境や人や生き物にとって配慮されたものであるならば言う事ありません。実際に環境への影響が少ない農薬も出てきています。お陰で実際に多くの人々の食を支えたのも事実ですし、高温多湿で病害虫の発生しやすい日本で、オーガニックのみの生産で日本全体の食を賄うのは量的に現在は難しいと思っています。

 仕事でいつも関わる、家畜保健衛生所の職員さんや獣医さん、資材屋さん、薬屋さん、餌屋さん、皆さん、現場で自分にできることをとても一生懸命に善意と良識と日々の努力から専門の仕事を行われる方々です。

 慎重になるのはとても大切なことですが、人を全く信用しなくなると生きていくのが辛くなります。普段は山に籠もって作業をしているので人見知りですが、私は人が好きです。人を信用し過ぎると辛いこともありますが、人を信用しないで生きることは個人的にはもっと無理です。

 豚熱ワクチンを打つからと告知義務があるわけではありませんが、買ってくれる、食べてくれる方々に全ての情報を開示するのは、やまあい村の生産者としてのスタンスであり、矜持です。豚熱ワクチンを打つことになってしまいましたが、ご理解いただければ幸いです。

 それから、農林水産省の発表や報道にもある通り、豚熱にかかった豚肉が市場に出回ることはありません(屠畜場で獣医さんが検査しています)し、もし食べても人体に影響はありません。豚熱ワクチンにしても豚の体内で抗体を作った後は全て体外に排出されるようにできていますし、接種後も充分な期間を取って出荷されます。

 そもそも、国内外問わず、昭和から平成の途中まではずっと打たれていたワクチンなので安全性は担保されていると考えています。

 どうしても気になる方は、現在、日本国内では北海道だけは豚熱ワクチン接種推奨地域ではありませんので、オススメです。

 何かあればこうやって開示して参りますので、今後とも宜しくお願い致します。

やまあい村
武藤勝典