井 雅信さんの放牧あか牛 肩スライス 200g【冷凍】..
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抗生剤不使用、九州産100%飼料の完全放牧あか牛
わが『きくち村』でもつねに不動の人気を誇り、いまや名実ともに屈指のブランドとなった感のある「井さんのあか牛」。そう、抗生剤不使用の、九州産100%の飼料で育ったあのあか牛のことですが、じつはその周辺からまたあらたなるチャレンジが始まっているとのウワサを聞きつけ、取材班は阿蘇郡産山村へ向いました。
抗生剤不使用の、九州産100%の飼料はまったくそのままに、そのさらなる上を行く、なんとなんと完全通年放牧というチャレンジに挑みしツワモノ。そんな果敢なるチャレンジャーとは井信行さんご自身ではなく、その息子さんである、井雅信さんそのひとでありました。
あか牛の飼育、ひいては畜産における革命児だといっていい井信行さんの背中を見つつ追い続け、20歳ごろから同じ世界に入り、はや30年以上。雅信さんはこの世界にどっぷり入り、毎日を牛のために費やしてきました。抗生剤不使用、九州産100%の飼料という、あまりにハイレベルな父の飼育法を目の前で見て来た雅信さん。「周囲のひとびとが“まさかそんなことができるわけがない”と思っていたことを頑に信じ切ってやり遂げるんだから、そりゃまぁ凄いことだと思いますよ」と幾分照れを垣間見せつつ、まるで他人ごとのように我が父を語るのがなんだか微笑ましい。「でもどうせそこまでやるんだったら・・・という想いはやっぱりありましたね」と自らが完全放牧に挑戦しようと思った経緯をさらりと語ります。
小さい頃から母の影響で犬や猫の動物が好きだったという雅信さんは、柔らかで温和な印象のひとで、優しく潤んだその眼がなんとなく牛のそれに似ているような気がしないでもなく。「もちろんそれぞれの牛にそれぞれの性格があります。つまり放牧に向いた牛とそうでない牛がいるんです。だからここで繁殖させた子牛たちは、小さい頃からなるだけ自分の手で触れてかわいがってあげて、こちらもなるべくその性格を知ろうと勤めます。怖がっておどおどした牛はやはり放牧には向かないですから」。とにかくその言葉の端々に牛に対する愛が垣間見えるひとなのです。
のびのびと本来のあるべき姿で育てられた牛
そういえばこの飼育場に入って来て、牛小屋特有の、あの異臭のようなものをまったく感じないことにいまさらのように気づいたり。糞の掃除には気を使っており、特に産まれたばかりの子牛は病気に弱いため、その飼育場はとても清潔で綺麗に保つのは必須なのだそう。例えば牛が下痢をしないようにその餌のなかに薬を混ぜて飼育したりする方法もあるそうで、ここではその正反対の術を取っているというわけです。「もちろんすべての飼育場がそんなやり方をしているわけではないでしょう。でも消費者の方達が自分たちの食べるものの在り方だとかその育て方をもっともっと知って欲しいという想いはやっぱり強くありますよね」。雅信さんが完全放牧の挑戦に踏み切った要因はどうやらこの辺にありそうです。というのも、ひとことで簡単に放牧と言うけれども、雅信さんご本人に伺う所によれば、これはなかなかにリスキーな挑戦なのです。
まずは単純に、そもそも放牧は牛にとって危険であるということ。もちろん放牧する広い草原は柵で囲ってはいますが、いつ彼らがそれを乗り越えるかわかりません。柵を越えてあわや事故にあわず、飼育小屋に無事戻って来ることを日々願って育てるばかり。そしてもう一点は、牛たちがのびのびと自由に好きに動き回り運動をするため、逆になかなか太りにくい点。太りにくいというのは牛肉の世界ではもはや致命的のことであり、通常はいかに太らせ、いかに市場に向けた等級の得ることのできる肉作りをしていくか、というのが現在の飼育業界の通例のよう。そんな点を踏まえていくと、なんでわざわざそんなリスクある挑戦をしなければならないのかと逆に聞きたくなってくるのですが・・・。
そんな風にこちらが訝しがっていると雅信さんは幸せそうにこう語り出すのです。「どうやら彼らにとっては私たちが選んで与えている穀類なんかよりも、外に生えている自然の青草の方がごちそうみたいなんですよね。というのは、通常の牛たちよりもあきらかに穀類を食べる量が少ないんですよ。気がつくとすぐに自由に外に出て行っては、自然に生えた青草をむしゃむしゃと美味しそうに食べている。そんなのびのびした姿をみてると“ああ、これが彼らの本来あるべき姿なのかもしれないな”とも思うんですよ」。そう、やっぱりあくまで雅信さんが牛を見る眼は優しくて温かい。子牛の頃から大事にかわいがって育て上げ、最後は人間の業としてそれが人の血となり肉となる商品に替わるのだとしても、というかだからこそ、牛本来の生き方に準ずるべきなんじゃないか。例えそれが人間が勝手に作り上げた肉の等級などには真逆の方向なのだとしても。雅信さんは多くを語らなかったけれど、その少ない言葉のうらにはそんなメッセージがあるような気がしました。
「透き通った味」。それが牛肉に使うべき正しい表現なのかはわかりませんが、実際に食べて見るとそんな言葉が思わず浮かんでしまうお肉。噛めば噛むほどに肉そのものの深い味わいが口のなかに広がり、それはあっさりとしていながらも尾を引いてしまう旨さ。「これが牛肉本来の美味しさなのか」と思わず呟きたくなる味なのです。なにより脂の味わいが澄んでいて、決してしつこくなく、それはホルモンの味わいにも特に顕著。「焼肉のタレでなけりゃ食べれない牛肉なんて、それはもう・・・」。自分で育て上げた牛たちのお肉は必ず自分でも責任を持っていただくという雅信さんは取材中しきりにそう呟いていましたが、確かにこれは雅信さんの言う通り、甘ったるい焼肉のタレではなく、塩こしょうやシンプルな味付けできっぱりといただきたい逸品です。